根拠のない「がん情報」をネットでシェアする方にお伝えしたいこと

インターネット上には、ある特定の食品・光・音などが「がん」治療に効果があるという書き込みが山ほど見つかります。商売目的の悪質なページもありますが、それとは別に一般の人が気楽にそれらをtwitterやfacebookでシェアして、広がっているのも見かけます。おそらくは、それほどの悪気はなく、がん患者のためや、一般の人のがん予防のためになるのではと、投稿やシェアをしているのかもしれません。健康情報を発信している延長として行っているかもしれません。はっきりと言いたいのは、デマ情報は何の役にも立ちません。むしろ、患者やその家族を傷つけるだけですので、本当に止めてもらいたいです。

その情報は本当に根拠がありますか?

これはがんに効くと書かれている方は、良く考えてみてください。それは100%根拠がありますか?何百人という患者で試して、絶対の効果を試したものですか?あなたはその食品だけを食べて、がんが治った人を本当に見ましたか?広げている方は軽い気持ちで行っているのかもしれないです。しかし、その気安く書いた情報に、患者も家族も大いに惑わされて、時には大きな混乱を受けることになります。

ネットで広がるがん治療情報は嘘ばかり

ネットには本当に嘘ばかりが広がっています。がんを治療できる周波数の音が聞ける動画とかが大きく広まっているのを見て、怒りを通り越して、悔しくて泣けてきました。真面目にやっている我々をバカにしています。明確に書いておきますが、がん治療に明確な効果が証明されている食品はほとんど存在していません(※注釈参照)。また、一般生活に存在する光や音などで、治療効果があるものもありません。いろいろなデータを出して、それっぽく見せていますが、予防に効果があって治療効果は証明されていなかったり(予防と治療の違いについては以前のブログを参照してください)、細胞実験レベルのデータだったり、数十名に適当に試しただけでしっかりとした証明がされていなかったり、特定の医師が効くと主張しているだけだったりします。

がん治療効果があると言える証拠とは何か?

皆さんはどのようなデータがあればがんに効くと言えると思いますか?その証明には、数百人規模の患者を集めて、治療群と偽薬(見た目が一緒だが有効成分のない薬)群に分けて、しかも治療を実施している医師にも、受けている患者にも、どちらが投与されているかわからないようにして(二重盲検と言います)、診断・治療・副作用などが正しく客観的に評価されているかを見る第3者委員会も設けて、そこで明確に生存期間が延長するかを証明しなくてはいけません。これほどの高いレベルの証明が必要です。あなたがシェアしようとしている情報にはその証明がありますか?

なぜ、嘘の情報は患者や家族を傷つけるのか?

情報をシェアされている方の多くは、それほど悪気はなく、がん患者を傷つけているとも感じていません。人によっては、「真実かどうかは見極めるのは自分の責任だからいいだろう」とも言います。それはあまりに患者の置かれている心境を理解していません。がん患者もその家族も置かれている立場や心境が全然違うのです。例えば、何かの食品ががんに効くという書き込みがあったとします。がん患者や家族はそれらの情報を見たときに、その食品を一生懸命とらなければという衝動にかられて、効きもしない食べ物に、時間と労力とお金を割かれてしまいます。がん患者は、治療で食欲が落ちたりして大変なのに、さらに好きな食べ物を食べれずに、大変なストレスを感じたりします。

がん患者は嘘とわかっていても試さざるを得なくなる

患者さんによっては、どうせほとんど効かないのではと、薄々分かっていても、試さないわけにはいかなくなってしまいます。だって、みんな生きたいのですから、やれるだけのことをやろうと思うわけです。だから、一般の人にはどうでも良いような怪しい書き込みでも、がん患者は完全には無視できなくなって、苦しめられることになるのです。

精神的にもダメージを受ける

がん患者さんは自分が病気になったこと自体にもショックを受けています。ほとんどのがんは患者に何か原因があって、がんになるわけではありません。本当に偶然です。しかし、すでにがんが進行している人は、病気になってから今までの間に、書かれていた食品を食べてこなかったために、がんになったのではないかと思い、そのことを後悔します。また逆に、これを食べたからがんになったという嘘のせいで、自分を責めたりもします。普段なら惑わされないような嘘の情報にも、追い込まれているので、精神的なダメージを受けることになります。

がん治療に関する情報はとても重大なものです

いろいろな考え方を持つことは良いことです。西洋医学が全てではないし、いろいろな考え方や価値観があっても全く問題はないです。いろいろなものを健康に良いと思い、使うことを否定するつもりは全くありませんただ、がんに本当に効くのかどうかだけは不確かではダメです。がん患者のおかれている気持ちや苦しみを、良く考えてあげてください。

真剣勝負の邪魔をしないであげてください

がん患者は生命をかけた戦いをしています。その戦いは楽なものではありません。急に病気になり、常に時間との戦いになります。間違いの許されない戦いです。判断を間違えれば人生を失ってしまいます。子供がいる人はその子の成長を見ることができなくなります。だからこそ、医師も研究者も必死になって、絶対に間違いがないように、常に世界の中で最も効く可能性が高い治療が何なのかを調べ、それを受けられるように勉強をし、技術をつけて、全身全霊で患者に向き合います。もし、間違った情報を信じて、全く効果がなければ、その人は生命を失い、大変な後悔の中で亡くなっていくことになります。残された家族も大変な苦しみの中で、その後の人生を送らないといけなくなります。あなたの情報はそんな真剣な人達に向けられる本気で調べた情報なのでしょうか?

最後にお伝えしたいこと

私も多くの患者に出会ってきましたし、悔しい戦いもたくさんしてきました。難しい病気だからこそ、絶対に間違いは許されないからこそ、患者も医療者も悩み苦しみます。常に真剣勝負です。生命をかけた戦いです。どうか、患者の思いを良く考えてあげて、それらの真剣勝負の邪魔をしないであげてください。安易な気持ちでちょっと書いた情報でも、その情報に傷つけられているがん患者がいることを考えてあげてください。がんに関する情報発信には慎重に臨んでもらいたいです。

 

<注釈>

2018年4月に大腸ガン再発予防に対して、ナッツ類が効果があることを示されました。そのため、大腸ガンにおいてのみ、ナッツ類は治療を助ける働きがある可能性があります。それ以外に高いレベルの治療効果が確認されている食品はありません。