幡野広志さんのインタビュー記事に感じたこと

バズフィードに掲載された写真家 幡野広志さんへのインタビュー記事がとても印象的で、たくさんのことを考えさせられました。このブログでも紹介させてもらい、私が思ったことを書かせてもらいます。

 

元記事はこちらになります。

がんになったカメラマンが息子に残したいもの 大事な人が少しでも生きやすい世の中になるように

写真家 幡野さんは34歳という若さで末期ガンという診断を受けてしまい、崖っぷちに突然落とされてしまいます。彼には1歳半の息子さんがいました。彼は診断された時のことをこうふりかえっています。

痛みに耐えきれなくなった11月、ようやく総合病院でMRIを撮り、「背骨に腫瘍があります」と告げられた。一人で結果を聞いた幡野さんに、主治医は「背骨に転移しているということは相当末期状態です。場合によっては3ヶ月から半年ぐらいですよ」と突きつけた。

当時1歳半になったばかりの長男や妻のことを思い、一晩泣いた。

ちょうど、私にも同じくらいの年の子供がいますので、その時の思いは痛いほどわかります。彼のブログには子供との写真を載せておられますが、その写真に込められた思いを考えると涙をせずにはいられません。

 

幡野さんがすごいなと思うのは、その崖っぷちから猛烈な情報発信を開始されたことです。しかも、彼はがん患者を悩ませる嘘や、ひどい誹謗中傷に真っ向から立ち向かっていきます。記事からいくつか引用して紹介します。

科学的根拠のない食事療法を勧めてくる読者に「迷惑です」と答え、「善意で勧める人に迷惑と言うのは失礼だ」と絡む人にも丁寧に答える。

「善意を迷惑と言うのは難しいです。 友人や親族からのありがた迷惑を言えずに苦しんでいる方が多いのです。 だから発言力がある人間が矢面に立ってでも言うことに意味があります。 全ての善意が迷惑なのではありません、勧誘や紹介が時として破滅に向かわせます。 はっきり言います、迷惑なんです」

 

最近では菜食主義者の人が、狩猟をしていた幡野さんががんになったことを「自業自得」「因果応報」と中傷するのに対してはこう冷静に打ち返した。

「自分と主義が違うからと言ってガンになった人や苦しむ人に言い放つ言葉ではない。宗教の勧誘を断ると、全く同じ捨て台詞を放たれます。 日本人の2人に1人はガンになります、非常にメジャーな病気です」

「インチキ医療や不快な言葉を他の人もたくさん受けているのですが、みんな言い返せないでいるんです。だから毅然とした態度で言い返す見本を見せたい。無視は簡単ですが、それではみんなに見えません。これが迷惑な行為なのだと“善意の人”に気づかせるためにも書いているんです」

 

代替療法や健康食品、食事療法も未だによく勧められる。いずれもがんに効くという科学的な根拠はない。

「そういうのを勧める人は患者が亡くなった後に『私が勧めた治療を拒否したからよ』と家族を責めて、苦しめることさえある。ひどかったのは、『ブログやSNSでうちの商品のことを書いてくれたら8万円支払います』と言ってきた業者です。他の人の闘病ブログにその商品が出てきてとんでもない奴だと思いましたが、考えてみればがんになると収入が断たれてしまう。この人も仕方なくやっているのではないかと悲しくなりました」

これらの発信は赤裸々にがん患者がおかれる状況をリアルに描写しています。多くのがん患者さんががんであることを公表すると、怪しい人達が大挙してやってきます。根拠のない食品などをたくさん勧めてきます。それを断ると、その人を誹謗中傷したり、言葉の暴力によって精神的な圧迫をかけたりします。こういうことをするのは商売目的の本当にひどい人もいるし、友人や親戚でそれらの治療を信じてしまい、親切心で勧めてくる人もいます。

それらに立ち向かうことは本当に簡単ではありません。ただでさえ突然の病気で精神的にまいっているのに、さらに面倒を起こされて、精神的に追い詰められます。効果がないとわかっていても、面倒にならないように、仕方なくそれらを買って、付き合っている方もいます。本当に大きな問題です。

また、イカサマ治療を拒否する人を守ってあげられる環境がないことも大きな問題だと思います。本来ならばそれらを勧められた時に、「がんの権威の先生がそれは効きませんとネットに書いてあるよ」とか言って、自分の理論を守ってくれるものを示せれば良いのですが、むしろがんの権威に見える先生がイカサマ治療を勧めているページの方が、世の中には多い現状ですので、正論を言っている人を守ってあげられていません。医療者側の人が患者さんを守ってあげられるような情報発信をもっとしていかないといけないと感じます。

 

もう一つバズフィードの記事を見ていてがっかりしたのが、医療者の言葉に振り回される幡野さんの状況です。

痛みに耐えきれなくなった11月、ようやく総合病院でMRIを撮り、「背骨に腫瘍があります」と告げられた。一人で結果を聞いた幡野さんに、主治医は「背骨に転移しているということは相当末期状態です。場合によっては3ヶ月から半年ぐらいですよ」と突きつけた。

病理組織の確定診断もしていない段階で、しかも腫瘍専門の医師でもないのに、余命3ヶ月から半年くらいですよという言葉は、まさに言葉の暴力です。前後にいろいろな言葉があったとは思いますが、患者が最も関心がある部分はもっと慎重に検討してから話すべきだと思います。

 

また、幡野さんが治療について医療者に聞いたことへの対応をこう振り返っています。

「看護師さんは全員治療をしないと言うし、先日会った人は自殺するとまで言う。医師では腫瘍内科医で緩和ケア医の西智弘さん一人だけが、『子供が小さいから少しでも長く一緒に過ごすために治療する』と言っていました。『標準治療をやらない』という医師は代替療法を試すと言い、主治医は『私は患者じゃないので答えられない』と言う。だから僕は正直なところ、標準治療には疑問をちょっと持っているのです」

どのような方に聞いたのかは分かりませんが、これらの対応には疑問を感じます。たしかに標準治療を行うことには辛いことも伴いますが、ちゃんと一定の効果を望めます。何より「多発性骨髄腫」などの血液腫瘍はがんの分野の中でも研究進展が著しく速い分野ですので、数年経てば劇的に効く薬が出てきて、全く別の状況になる可能性がある腫瘍です。私にしてみれば治療を諦めるという選択肢を勧めるのは信じがたいです。

それぞれの聞かれた方がどのような状況で、何をどう聞かれたか、幡野さんが答えをどう捉えられて、こういう発言になっているかは分かりませんので、一方的に批判することはよろしくないと思います。しかし、医療者であればもっと慎重な発言をしてもらいたかったなと思います。結果的に患者さんを惑わせる形になってしまっています。

「多発性骨髄腫」はとても専門性の高い腫瘍ですので、ほとんどの医師の方も、看護師の方も正直なところ、血液内科の腫瘍を専門に治療する医師でないと、正確な治療の現状を知らないと思います。最新研究の内容なんて知る由もないと思います。だから、突然質問されたことに答えることはとても難しかったと推察されます。でも、どのような治療をするかは人生に関わる選択ですので、とりあえずの答えを言うのではなくて、「知りません。専門の医師に相談すべきです」で良かったと思います。がんと言っている疾患も、全く別な数千の疾患の集まりですので、専門外の最新治療を知っていられるはずがないです。それは恥ずかしいことでも何でもないです。

このブログでは実際の患者が医療者の言動にも振り回されているという現実をリアルに示していると思いました。

 

幡野さんは肉体的にも精神的にも辛い立場であるのに、勇気をもって情報発信をしていて、本当に敬意を表したいです。その勇気ある行動はイカサマがん治療に悩む患者に、たくさんの勇気を与えているのではと思います。また、その情報発信は医療者側に足りないことも明確にしてくれています。日本のがん治療はまだまだ問題だらけです。それを変えられるのは医療者側だけでなく、患者側も含めた一人一人の勇気ある行動によって起こっていくのではと思っています。勇気を持って行動していかないといけないなと思います。