イカサマがん治療を見抜く方法 こんな宣伝文句はアウト

ネットにはがんに効くと主張する食品や、様々なタイプの未認可のがん治療が紹介されています。その多くは全く効果を期待できないものですが、一般の方がそれを見抜くのは難しいです。ただ、がん治療の専門家は簡単に見抜くことが可能です。なぜなら、それらには普通ならありえない説明が多数されているからです。今回は、イカサマ治療に多用されている宣伝文句に注目して、こんな言葉や説明があったら危険信号というのを紹介して、それはなぜなのか解説したいと思います。このアウトな宣伝文句を理解しておけば、イカサマ治療に騙されるのを防げるのではと思います。では、順番にアウトな言葉を紹介していきます。

どの癌にも効きます

これは本当に多いです。「どの癌でも効果が期待できます」とか書いてあります。がんは数千の別の疾患の集まりです。全てのがんに効く治療などありえません。この文言が出た時点で、この治療を売っている人は、お金儲けをしたいだけで、効果はどうでも良いのだなということが分かってしまいます。この言葉についての詳細な解説は以前のブログ「この治療は全てのがんに効きます」の嘘 に書いていますのでそちらをお読みください。

「癌の権威〜〜博士推薦」

これは本当に多いパターンです。「癌の権威〜〜大学名誉教授〜〜先生が推薦」とか、「〜〜先生が長年の経験をもとに開発した」だとか書かれていたりします。一般の方は、この言葉でより信用するのかもしれないですが、医療者的にはこれではダメだとなります。がん治療の評価というのは常に自己主張ではなく、他者の評価承認において行われます。その証明は、有名雑誌に投稿されて、多数の専門家の高い評価と、正確性の確認をされて初めて認められます。そのため、「本物の治療」の場合には、「この治療の効果は2014年のLancet(有名雑誌の名前)に掲載されています」とかの論文の紹介になります。本人が言っても本当かどうかわからないですし、そもそもその本人は直接的な利益者そのものですので、全く信頼できません。

免疫力アップ・免疫活性化

一般の方が好きな言葉に「免疫力アップ」という言葉があります。がんを倒すのに免疫細胞が大事なのはもちろんなのですが、自分が持っている免疫力を何かであげることでがん治療をしようというのは何十年も前の古い手法で、それらにはほとんど効果が得られないことがすでに示されています。そもそも、自分の免疫細胞では倒せないから癌ができたのであって、ダメな免疫細胞を多少増やしても意味がありません。免疫チェックポイント阻害剤のようにがん細胞を変化させて免疫細胞に食べられるようにしたり、CAR-Tのように免疫細胞を改造したりなどの、新しい手法を使わないといけません。

末期ガンが治った・癌が消えた

この表記はほとんどの場合がアウトです。こういう曖昧な表現を使う時点で専門家の仕事ではないとすぐに分かります。がんの治療効果を表現する際に重要なのは、どの種類の癌に対して、何の治療を併用して、コントロール群(全ての条件が一緒で偽薬を投与した群)と比較して、どのような効果が得られたかを書く必要があります。正しい説明は、「肺腺癌に対して標準治療との併用で、プレセボ投与群と比べて5ヶ月の平均生存期間の延長効果を得た」というような表記になります。これらの必要な情報を書かないと全く効果がわかりません。車の性能を示すのに、「この車はかなり燃費いいです」「かなり良い走りしますよ」くらいの曖昧な表現です。他の比較対象と比べて具体的にどこがどう良いのか示さないといけません。

標準治療と併用したかをわざと明記していない

治療成績を示す際にとても重要なのは、病院で行われる標準治療と一緒に行ったかどうかです。そもそも現代の標準治療では、かなりの効果が期待できます。進行癌でも治癒できることがありえますし、たとえ大きな腫瘍でも一度消すことができる場合すらもあります。その標準治療とそのイカサマ治療を併用したら、もちろん標準治療のおかげで良い効果を得られることが考えられますので、真にその治療の評価かを見るためには、標準治療のみの患者との正確な比較が必要です。または、単独でその治療だけを受けた患者の結果を出す必要があります。しかし、多くのイカサマ治療では、その点はあえて明記せずに、勝手に標準治療の手柄を自分のものにしていることが多いです。標準治療と併用したかを曖昧にしている場合は要注意です。

「患者の経験談」などの少数例の治療成績を強調

「この治療を受けた方で、余命半年と言われたのに、2年も生きた方がいます」「この治療は全ての方に効果があるのではないですが、5~10%ほどの方に効果を示すことがあります」などの、「患者の経験談」や少数例の治療成績による効果の紹介です。これらは一見すると信頼できそうですが、ほとんどの場合において、効果を正確には表していません。効果を誤認させています。なぜ、少数例の治療成績の強調は誤認させるのかを詳しく知りたい方は、こちらのブログに詳しく解説していますので、ご参考になさってください。

医療界や製薬会社は嘘をついている

まともな人がみたら馬鹿げているというこのパターンは、実はものすごく多いです。例えば、「この食品は保険適応を取ろうとしたら、あまりに効くので、製薬会社がそれでは困るといって潰された」「医師は儲かる抗がん剤を売りたいから邪魔されて開発できない」などなど、枚挙にいとまがありません。世界中の何万人という医師がみんな嘘をつくはずがなく、ちょっと考えればとんでもない話ということはすぐに分かるのですが、この表現というのは実はとっても効果的ですので良く使われています。この商法はオカルト宗教などの勧誘で使われているのと同じ手法です。説得力のあることをいうのは簡単ではないので、自分以外はみんな嘘をついているといってしまい、それを信じ込ませてしまえば、他のことは何も受け付けなくなるので、商売がしやすいという方法です。騙されるととことん騙されることになり、一番危険なパターンです。お気をつけください。

日本だけ抗がん剤治療を行っている

日本の標準治療がひどいという宣伝をして、病院治療を続けてはいけないという主張をするために、アメリカでは抗がん剤が禁止されていて、日本でだけ行われているという主張をしていたりします。これは完全な嘘です。アメリカでも抗がん剤は使われていますし、両国とも行われている癌治療はほとんど同じです。また、日本の癌治療は世界の中でも高いレベルにあります。詳しく情報が知りたい方は、こちらのブログで解説していますので、ご覧ください。

日本のがん死亡率は先進国の中で唯一上がっている

これも先ほどと同様に、日本の治療がひどいと信じ込ませて、病院治療から引きはがし、自分たちの治療を売りつけようというために、この主張をしてきます。これは統計を使ったトリックで嘘です。多くの場合はわざと年齢調整をしていない死亡数を利用しています。癌の治療効果を正確に評価するためには年齢調整死亡数を使う必要があって、日本のこの値は確実に下がってきています。詳しくはこちらのブログをご覧ください。

「がん予防」に効果があるから「がん治療」にも効く

がん予防に効果があるというデータから、がん治療にも効果があると説得するパターンです。「がん予防」と「がん治療」は全く別のものです。これも以前のブログ がんの予防と治療は別のもの に詳しく解説しましたので、そちらのブログをご覧ください。

細胞実験レベルのデータがでている

「シャーレの培養がん細胞に有効成分をかけたら、がん細胞が死にました。すごい発見!」一般の人はちゃんと調べていて信頼できると思うようです。シャーレのがん細胞は、抗生物質でも、水でもかければ死ぬほど弱いです。細胞実験レベルのデータは実際の人に効くという根拠にもなりません。それを根拠にしている時点でこれはダメとわかってしまいます。

まとめ

今回はイカサマがん治療に良く見られる言葉や説明について解説しました。これらの文言がでてくるということは、根拠がなく、治療効果が望めない治療である可能性が高いです。もちろん、絶対に嘘とはいいきれませんが、これらの文言がでてきたら疑ってかかる必要があります。もし、自分では判断が難しければ、自分の担当医に必ず治療を受ける前に相談をしてください。ぜひ、覚えておいてもらって、騙されないように注意をしてください。

 

<更新情報>

2018/6/3    「日本だけ抗がん剤治療を行っている」「日本のがん死亡率は先進国の中で唯一上がっている」「「患者の経験談」などの少数例の治療成績を強調」の項目を追加しました。