末期癌の友人にどのように接するべきなのか?

最近、ある方に聞かれた質問の答えで悩んでしまいました。その質問というのは、「友達が末期癌であることがわかってしまったのだが、その人にどう接して、何て声をかけて励ましてあげれば良いのでしょうか?」というものでした。その方は大切なご友人のために、何かをしてあげたいと心から思っていました。しかし、どうすれば良いのか分からなくて悩んでいました。

私はこの問いを聞かれた時に、正直なところ、良い答えが見つかりませんでした。私が癌研究者として、患者にしてあげるアドバイスはいろいろと考え付きます。しかし、専門的な医療知識があるわけでもない一般の方が、末期癌の友人に対して、かけられる言葉はなんだろうと考えたら、簡単ではなく、とても難しい質問だと思いました。

それから、この問いの答えはなんだろうと考えていました。最高の答えがあるのかも分かりませんが、自分なりの答えを見つけようとしていました。先日、その自分なりの試行錯誤の結果を、自分のFacebookで報告して、皆さんの意見も聞いてみました。その結果、患者や家族、専門の医師からたくさんの貴重なアドバイスもいただけて、一つの答えがわかった気がしました。きっと、多くの方が同様な悩みをお持ちかもとおもったので、今回このブログでその内容をご紹介したいと思います。

「ただ耳を傾ける」それが答えかも

この問いの答えはなんだろうなと考えていて、たまたま、私はTEDの動画「ただ耳を傾ける 大抵はそれが一番の手助け」を見つけました。これは癌とは全く関係ない話で、イギリスにある電話で悩み相談を受けるボランティア組織の話なのですが、この話で紹介されていたのは、「どんな難しい問題でも、具体的な助言をするのでなく、ただ単にその人の話に耳を傾けることが、多くの場合では大きな救いとなる」と伝えていました。

私はこれが一つの答えかもと思いました。患者さんが許してくれるなら、その人のそばにいって、その人の話を、その人の苦しみをただ単に聞いてあげることが一つの答えなのかなとも思いました。その人の命を助ける行動をしないといけないわけではない。具体的な治療を助けないといけないわけではない。ただ、シンプルに近くにいて、悲しみや悩みや苦しみを聞いて、一緒に共感する。そんな人になってあげるだけでも、患者の助けにはなるのかもしれません。

このことについて埼玉医科大学の矢形 寛先生から、こんなアドバイスをもらいました。

ただ受け入れる。まさに耳を傾ける。そばに寄り添う。そっと後ろから見ていてあげることが何より重要です。根本的な解決はできなくても解消はできる。余計なお節介ではなく、大いなるお節介をする(がん哲学の受け売りです)。タイミングによりますが、同じ頑張るでも、頑張れではなく一緒に頑張ろう、だろうと思います。頑張れは伝える側の一方的な気持ちです。大切なのは本人の気持ちです。頑張りたくない思いも大事にする。

寄り添うという手段は一つの大事な方法であることを教えてくださいました。

また、ご自身ががんを経験した患者さんからも、

私自身が癌を患った時に最も嬉しかったのはシンプルに、すぐに飛んで来て一緒に泣いてくれた友の存在でした。ただただ頷き話を聞き、一緒に泣いてくれました。
また治療中で動けずに居た時には、病には触れず季節の写真などを、定期的に届けて下さった方の心遣いも嬉しいものでした。ただ聞いて貰えるだけで良いのだと思います。

「ただ耳を傾ける」は一つの答えなのかもしれません。

 

「必ず治る」との安易な励ましはすべきでない

そばに行って、話を聞いてあげるとしても、気をつけるべきことはあります。かけるべきではない言葉もあります。多くの場合に良くないのは、「必ず治るよ」などの励ましの言葉だと思います。それは進行癌の患者自身も、そう簡単なものではないという現実を痛いほど知っているので、その安易な励ましは、多くの場合は嬉しくもなく、傷つけさえするかもしれません。

もちろん患者にもよるとは思いますが、気をつけないといけない言葉だと思います。回復の可能性が高い早期癌の場合には良いですが、厳しい状況の患者に対してですと好ましくない言葉となります。

最近、写真家の幡野さんがブログで、がんになったと告白した後に苦しんだこととして以下のことを書かれています。

「そして電話の内容のほとんどが、『奇跡は起きるよ』『頑張って』などの無責任な言葉です。今うつ病患者に『頑張って』というのはNGだとみんな知っている。がん患者にもNGワードはたくさんあるのに、みんながんのことをよく知らないからそんな言葉をかけてしまう。」

また、妹さんをがんで失った経験がある千祥さんからもこんなコメントをいただきました。

側に居て、耳を傾ける。これに尽きると思います。亡妹はがん性髄膜炎と分かってすぐ余命1か月と告げられ、本当に1か月で逝きました。余命を告げられたことを近しい友人に話すと、あきらめちゃダメ、頑張れ、と励ましてくれましたが、それまで周囲の励ましを感謝して受け入れていた妹が、そんなこと言ってほしいのではない、ただ受け入れてほしいのだ、と初めて怒ったことを思い出しました。

「必ず治る」「あきらめちゃダメ」などの治癒を目指すような励ましの言葉の表現には注意が必要だと思います。

 

患者の状態にも注意しましょう

患者は診断・告知からダイナミックに精神状態が変わります。いつも同じ精神状態でいるわけではありません。一人にしておいて欲しい時期も、もちろんあります。勝手にそばにズカズカと入っていってはいけないです。慎重に様子を伺って、許してもらえれば、そばに行って、話を聞いてあげるというのは一つの方法ではと思います。また、遠巻きに接して、手紙や電子メールを書いてあげるというのも、もちろん良い手ではと思います。

ご自身の精神的負担には注意を

私がこの話を聞いてあげるのも一つの手ですという話をした時に、緩和ケア医の西 智弘先生から以下の注意点を伝えてもらいました。

私は、医療のトレーニングを受けていない人が、「ただ耳を傾ける」ということは難しく危険なことと思っています。自ら自発的にそれを行える方ならいいのですが、医療者が「そうすればいい、自分はそうしている」とアドバイスして実行させるなら、その人の心が壊れてしまうリスクを考慮しなければなりません。
一般の方が「何かしてあげたい」と思うのは、自分の心を護るためという一面があります。つらく悲しい思いをただ耳を傾けて受け止めるというのは相当のストレスです。だから、それを「何かをしてあげた」ということで患者に返すことで、自分の心が壊れることから防衛しています。安易な励ましやアドバイスにはこういった側面があります。なので、この関係性は患者・友人のどちらも不幸になりうる構図になっていると考えています。
なので、友人に「耳を傾けさせる」なら、その友人を心理的負担から解放する仕掛けと一緒である必要があると思っています。それこそが医療者ができるケアだと思います。

我々、医療者側にいる人は多くのトレーニングをしていますので、話を聞くことで受ける精神的負担にも耐えられます。それに対して、一般の方はそのような場面にあまり出会ったことがありません。そのため、ご自身の精神面での負担のことも、気にする必要があります。

ご自身がまいってしまうほどに、精神的負担を抱えてしまうのは危険です。そばに寄り添ってあげるにしても、決して無理はせずに、頻度や接し方に関しては注意をしてもらえればと思います。とても自分では受け止めきれないと思えば、手紙やメールだけでも良いと思います。私はあなたのことを思っているということを伝えてあげる。それだけでも良いと思います。

また、相談にのるあなた自身も精神的な面をサポートしてくださるサービスを利用することも一つの手です。最近では、西先生が「暮らしの保健室」という試みをされており、患者だけでなくその家族や友人を支える仕組み作りをされています。西先生の言葉を紹介します。

私たちは、そういった場合を拾い上げるために「暮らしの保健室」を町なかに作って、患者だけではなくその家族や友人を支える仕組みを作りました。実際に、ここに「友人ががんになってどうしたらいいかわからない」という悩みが先日持ち込まれ、私が対応しました。大切な友人を失うかもしれない不安で決壊寸前という状態でしたので、私がそこでしたことは「ひたすら耳を傾ける」ことです。特に何もしていませんが、それだけでその方は安心して自分の日常に帰っていかれました。私は医療者なので、その受け止めた思いは自分で処理することができます。そういったサポートがあれば、また自分の大切な方へ向き合う力を取り戻していけるのではないかと考えています。

このような仕組みを利用して、ご自身の精神的負担も軽減しながら、接してもらえればと思います。残念ながら、まだまだこのような「暮らしの保健室」のような組織は多くなく、専門家に相談できる場所は多くないようです。マギーズ東京もそのような相談に載っているようです。今後、このような団体の情報を見つけましたら、追記してお伝えします。

治療を見つけることが役目ではありません

もう一つお伝えしたいことは、その人のために何かをできればと、がんに効くという食品などの情報を一生懸命探す方もいます。その気持ちは痛いほどわかります。ただ、治療はとても専門的なことです。しかも、一般の方がネットなどで調べた情報は不正確なことも多いです。残念ながら、それは患者の迷惑になることもあります。治療のことはどうか専門の医師にお任せしてもらいたいと思います。

最後にお伝えしたいこと

「末期癌の友人にどのように接するべきなのか?」一つの答えは「ただ耳を傾ける」という方法かもしれません。安易な励ましをしたりするのではなく、患者の思い、悲しみ、苦しみにただ耳を傾けてあげる。自分はあなたと一緒にいることを伝えてあげてください。具体的な治療のアドバイスなどする必要ありません。

もちろん、私の今回導いた答えが常に正しいわけでもなく、患者や行う当事者によっても変わるかもしれません。癌で苦しむ友のために何かできないかと思っている人で、何か行動を起こしたいと思っていたら、この方法を考えてみてください。

ただ、あなたは専門のカウンセラーではありません。ご自身が受ける精神的な負担も大きいことを決して忘れずに、無理は絶対にしないで、距離感や接し方には注意をしてください。時には、ご自身が専門の方に相談して、精神的な負担を軽減することも考えてください。