がんの標準治療を受けない危険性

情報に惑わされる危険性

もう一つの論文を紹介します。これはつい最近にJAMA Oncologyという有名誌に掲載された論文です。この論文ではアメリカで、1032例の標準治療のみを受けた患者と、258例の標準治療を受けたが代替療法も受けた患者との、治療成績を比較しています。この2群の患者が持つバックグラウンド(年齢・がん種類・進行度・人種・保険種類・診断時期など)は一致させていて、治療に影響を及ぼす背景に違いはないようにしてあります。

この論文では完全に代替療法のみを選択したのではなく、標準治療+代替療法を選択した人の成績がどうかを検討しています。

その結果は、上の図のように、標準治療に比べて、代替療法を取り入れた治療を行った人の方が治療成績が悪いことが示されています。死亡リスクは2倍になっていることが指摘されています。

代替療法は効果があまり期待できないとしても、なぜ両方の治療を行った人の方が悪い結果になったのでしょうか?この理由は、受けた標準治療の内容を見るとわかります。

代替療法も選択した人には、標準治療の一部を拒否する人が多く、ちゃんと標準治療を受けなかったことがこの論文では示されています。代替療法も選択した人の7%が手術を拒否、34.1%が抗がん剤治療を拒否、53%が放射線治療を拒否しており、この標準治療をしっかりと受けなかったことが悪い結果につながったと、この論文は結論付けています。

これは実際に日本でもたくさん見られている事象です。代替療法を勧める人々には標準治療を否定する人が多くいます。「抗がん剤は毒だ」「手術は免疫力を弱めて、癌が進行する」など、明確な根拠のない話が山ほどついてきます。

それらの情報に暴露したことで、化学療法や放射線治療に対して否定的な見解を持ち、その結果として抗がん剤治療を行わなかったり、手術を適切に受けなかったりして、治療が不十分になってしまい、癌が進行してしまうというのは実際に日本でも良く見られることです。

間違った情報を信じてしまい、標準治療を適切に行わないと、患者に不利益を与えるということが、この論文でもわかります。

標準治療を第一に検討してください

標準治療というのは、人類の英知の結晶です。何十年という年月をかけて、何千〜何万という患者での検討を経て、現時点で最も効くと分かった治療方法です。その治療は確実に進歩しています。しかも、日本では保険適応されているため、自費の負担も少ないです。標準治療をまずは検討してください。

全世界で勧められているがん治療はこの標準治療です。WHOでも、アメリカのNCIでも、この科学的根拠による標準治療(手術・抗がん剤・放射線治療など)を第一に行うことを勧めています。