抗がん剤に関してのうそについて

ネットでがん治療と検索すると、山ほど嘘の情報が出てきます。その中でもよく見る嘘が「抗がん剤を使っているのは世界の中でも日本だけで、他の国では禁止されている。WHOは抗がん剤使用を禁止している。そのために日本のがん治療成績はアメリカと比べてとても悪い」というものです。なんだかそれらしいグラフとか、なんだか偉そうな人の写真とかでてきます。抗がん剤否定信者がよくこの手の書き込みをしています。

もちろん、これはとんでもない嘘です。実は、この嘘については以前からネットで良く見ていましたが、医療者からすればバカバカしすぎる嘘で、いちいち否定する必要もないかと、あまり気に留めていませんでした。しかし、ネットで患者さんや家族と交流するにつれて、この嘘を信じている人も多く、たとえ完全に信じるまでいかなくても、この嘘に悩まされていることが多いと知りました。そのため、今回の投稿ではこの嘘についてちゃんと解説して、完全否定したいと思います。

抗がん剤とは何か

まず、抗がん剤とは何かという話から始めます。抗がん剤とは、一般的にがんの増殖を抑えるお薬の総称で、化学療法と言われる治療で使われます。一般人の認識としては、投与すると髪の毛が抜けたり、吐き気がしたりするがんに対する薬剤というのがそれにあたります。抗がん剤はがんに対する治療薬の中では、比較的古くから使われているものです。多くのがん治療薬が開発されている現在でも、様々ながん種でまだまだ有効で、たくさん使われています。最近では、分子標的薬といわれるような全くコンセプトの違うがんに対する薬剤が増えていますが、一般的にはそれらは抗がん剤とは表現されないことが多いです。

抗がん剤は世界中で使われている

さて、本題に入りますが、抗がん剤が使われているのは日本だけなのでしょうか?もちろんそんなことはありません。日本だけでなく世界中で使われています。今でも世界中のがん治療を支える重要な薬です。もちろんアメリカでもたくさん使われています。WHOが禁止などしていません。アメリカでもたくさんの患者ががんを治療するため、自分の命を守るため、抗がん剤の治療を受け、たくさんの人がその恩恵を受けています。

日本と他国でがん治療方法に大きな違いはない

そもそも、日本で行っているがん治療は他の国と違うのでしょうか?実際のところはほとんど違いがありません。基本的に世界中のがん治療方法というのはほとんど同じです。日本だけが違う治療をしているということはありません。ぜかといえば、話は単純で、みんなが最も効果のある治療方法を使いたいので、必然的に同じになっていきます。

この情報化社会では、何かの新しい治療方法にすぐれた効果が有るという報告がされれば、全世界の医者がその治療にすぐに飛びつきます。みんな少しでも効果のある治療、少しでも副作用の少ない治療を行いたいですので、必然的に同じ治療を使うようになっていきます。

もちろん薬剤の認可は国別に行われているので、半年—数年の遅れは伴うことはあります。しかし、基本的に良いものは全世界で同じように使われることになります。がんの治療というのは、命がかかっている治療です。他に良い治療があるのに、「面倒だから昔の治療のままでいいや」なんてことは許されません。

基本的には同じ治療方法が行われるはずなのに、国ごとに多少の違いが生まれるとすれば、それはお金や保険の面での違いからです。医療費が高額であったり、医療保険が充実していないなどの理由があると、高額の新薬投与を制限されたり、複数回の手術ができなかったりします。特に、発展途上国では残念ながら情報の遅れも、薬剤を手にいれる困難さなどもあり、最善の治療が行えていない現状があります

あと、違いが生まれやすいのは、まだ十分に有効な治療がない場合です。本当に効く治療があれば、一斉にみんながそれを使いますので統一されます。逆に、まだ良い薬がないということになると、様々な治療が試されるので、かなり違いがでたりします。それは一部のがんでは実際に起こっています。

WHOは抗がん剤を禁止していません

次に、WHOは抗がん剤を禁止しているという話についてです。もちろんWHOは禁止などしていません。こちらのWHOの癌治療についてのサイトを見ていただくと分かりますが、WHOはエビデンス(科学的根拠)に基づいた抗がん剤などの治療を受けるように、根拠のない治療を選ぶべきでないことをはっきりと明記しています。また、30もの抗がん剤をがん治療に必須の薬剤として紹介しています。WHOはむしろ抗がん剤治療を推奨しています。

日本のがん治療成績は世界トップレベル

最後に、日本のがん治療成績についても解説します。結論から言えば、日本でのがん治療成績は世界の中でもトップレベルです。最近に、Lancetでがん治療成績について、世界各国を大規模に比較した研究(CONCORD-3)が発表されました。この研究には、世界71カ国の約3750万人のがん患者について調査されており、世界で最も信頼できるデータと考えられています。

その結果では、日本はほとんどのがん分野で最高レベルの治療成績となっています。特に消化器がん(胃がんなど)の生存率は世界最高峰ですし、その他のがんでもトップレベルです。皮膚の黒色腫などの生存率だけが、他の国より低い結果となりましたが、これは黒色腫が日本ではとても稀で、発見が遅れてしまうことなどの特殊な事情によるもので、必ずしも劣っているとは言えません。

まとめ

今回の結論ですが、「抗がん剤を使っているのは日本だけ、WHOは使用を禁止している。日本のがん治療成績はアメリカと比べてとても悪い」は全くの嘘です。お気をつけください。抗がん剤治療は大事な治療手段です。もちろん副作用が強いことなど問題はあります。しかし、がんという強力な病気に立ち向かうためには必要な手段であり、全世界のがん患者はこの治療に向き合い、病気と戦っています。

 

<追記・修正>

4/25/2018 WHOのサイト情報を追加して、記載内容を修正しました。