がんの予防と治療は別のもの -怪しい食品に騙されないために知っておくべきこと-

がんになるのを防ぐ「予防」と、がんを治す「治療」を混同して考えている人が多くいます。この二つはとても似ているようにみえますが、全く別のものです。予防に効果があるからといって、治療に効果があるとは限りません。がん予防に効果があるという話から、治療にも効果があるという話のトリックで宣伝している食品などに、騙されないように注意をしましょう。

禁煙でがんを治療できる?

例えば、たばこはがん発症に強い影響があります。禁煙はがん予防に絶大な効果があります。しかし、がんになったあとにたばこをやめても、がんは消えません。もちろん新しい他の病気を予防することはできるので禁煙は大事です。しかし、直接的ながん治療にはなりません。予防と治療というものは、似ているようで全く違うものです。

発がんとは青少年がヤクザになる過程

がんは、もともとは正常な細胞に、遺伝子異常が起こり、何年もかけて変化していき、さらに異常が加わることで、最終的ながんになるという経過をたどります。例えると、純粋な青少年が徐々にグレていって、やがて不良になり、さらに何年もかけて、最終的にヤクザになるという過程です。

予防に必要な対処とは?

この青少年が徐々に不良になってしまい、やがてやくざになってしまう過程を防ぐのが「がん予防」です。そのため、必要な手段は家庭環境を整えたり、教育したり、相談にのったりすることになります。それが禁煙だったり、ピロリ菌の除菌だったり、肥満の予防だったりします。遺伝子変異が入ってしまう要因を、長期間にわたって減らすという作業です。これらは短期的な作業というよりは、長期的な健康維持に近いものです。

治療には強力な手段が必要

それに対して、他人に悪行の限りをつくしているヤクザに対しての対処が「がん治療」です。警察が悪いことをしているヤクザを逮捕して、組を潰そうとする作業にあたります。この方法は、さきほどの青少年を不良にしないという方法とは全然違うことは想像できると思います。のんびりと相談にのって、何年もかけて厚生しようというのでは、あっという間に街をヤクザに占拠されてしまいます。がん細胞はものすごい速さで増殖するわけですから、短期的に殺すための強力な治療が必要になります。それが抗がん剤や、放射線治療、手術だったりするわけです。

健康に良い食品ではがんを治せません

ここが今回の本題です。ここまで説明した通り、がん予防のための食品や食事などではがんは治療できません。質制限・キノコ・ビタミン剤などは、健康には良いかもしれません。肥満を防ぐことや、バランスよく食べることで一定のがん予防にはなるかもしれません。しかし、これらだけでがん細胞を殺すことはできません。がん細胞は正常細胞よりも強力で死ににくい細胞です。こんな健康に良いレベルでは全くお話になりません。そもそもそれらの健康に良いというレベルの食品は長期的にみて、効果を求めるものであって、短期的に細胞を殺すような作用はありません。

明確な治療効果を持つ食品はない

がん治療に明確な効果があるというには、それを摂取することで、がん細胞の増殖よりも早くに、大量のがん細胞を殺して、生存期間に明確な差を出さないといけません。もちろん、そんなことができる食品というのはありません。世界にはたくさんのがん治療がありますが、特定の食品が「がん治療」のガイドライン(推奨治療のレシピ)に含まれているものはなく、日本で保険適応される食品もありません。

摂取する食べ物との関係が非常に高い大腸癌においてのみ、脂質を多く含む西洋的な食事を控えることや、ナッツ類を摂取することが再発予防に効果があることを示されています。(ページ下部に詳細)しかし、それはがん細胞の殺傷効果があるというよりは、食べ物が直接入ってくる大腸の環境を変えて、治療効果が出やすくしているのではと考えられます。ナッツががん細胞を殺すわけではなく、他の癌でも効果が期待できるというわけではありません。

代替医療の中には、がん患者の精神を落ち着ける目的や、副作用の症状を抑える目的で使われる食品は存在します。しかし、それらは直接の治療効果を狙ったものではありませんので、それとも混同しないようにしてください。

がん予防に良いものは、治療にも効くという嘘

がん予防に良いという食品というのは、曖昧なものが多く含まれてしまいます。例えば、肥満は発がんの原因となるものですので、それを防げば効果があるとなってしまえば、かなりたくさんの食品が含まれてしまいます。予防に良いというのは曖昧なものが含まれてしまう土壌があります。正確にいうとちゃんとがん予防できると言うには、相当正確な臨床研究が必要なのですが、多くが曖昧な研究で主張しています。

悪い人たちは、食品に治療効果があることは証明できないので、それでも売るために、予防に良いという曖昧なデータを出して、だから治療にも有効ですと説明していたりします。いつの間にか話がすり替わっているのですが、一般の人には気づかれません。がん予防に良いから治療にも良いというロジックは、怪しい食品を売るのによく使われるトリックです。

発がん予防と再発予防も異なるもの

このような話をすると良く聞かれるのが、がん治療をした後に再発してしまう過程は、発がん過程と同じではないですかと聞かれることがあります。基本的にはこの二つも違います。科学的には、この二つのメカニズムも全然違うことが判明しています。再発は、正常細胞から再びおこるのではなく、ほとんどの場合が殺しきれないがん細胞が隠れていて、ある日から再び増えることで発生します。つまり、再発はヤクザの組を倒そうとして、片っぱしから捕まえたのに、捕まらずに残った組長が組を再興する過程といえます。これは最初のがん化とはだいぶメカニズムが違います。必要とされる対処もがん治療とほとんど同じことがなされます。生き残るがん細胞を殺そうとするためです。再発の中でも、全く違う部位に新たながんができるのは2次発がんと言われて、これは初発のメカニズムに近いものであることが多いですので、予防的な対処がとられることが多いです。

まとめ

がんの予防と治療は全く別のものです。がんの予防に効くからといって、治療にも効果があるように騙す食品などに注意をしましょう。特定の食品を摂取することで、明確な治療効果を得ることは難しいです。

 

<更新情報>

この記事を書いた後の、2018年4月11日に JOURNAL OF CLINICAL ONCOLOGYに以下の論文がでました。

Nut Consumption and Survival in Patients With Stage III Colon Cancer: Results From CALGB 89803 (Alliance)

大腸ガンの再発予防にナッツの積極的摂取が効果を示したという内容で、特定の食品がメタ解析でしっかりと効果を示された大変に珍しいケースが報告されました。この結果はまだアメリカの食品摂取をしている患者への研究なので、日本人の食事で予防効果があるかはわかりません。

大腸ガンは食事が入ってくる臓器そのもの癌ですので、食品との関連が深く、その発生にも赤肉やソーセージ摂取量が関連していることが示されたりと、とても珍しい癌の一つです。この癌だけは特殊であると考えるべきではと思います。大腸ガンの患者さんの場合には、ナッツを積極的に摂取することを試されても良いのではと思います。あまりやりすぎずに可能な範囲で構わないと思います。他の癌においては試す必要は現時点ではないと考えます。

5/24/2018: 上記の大腸ガンの論文内容を含めて、一部文章を改変しました。