嘘の医療情報に騙されないために知るべきこと
陰謀説はとにかく広がる
あとネットで厄介なのが陰謀説です。「癌の標準治療が効かないのに日本で行われているのは、医師と製薬会社と国がグルになって金儲けしているから」とかです。実際の医療の内部にいる人から見たらバカバカしすぎる話なのですが、一般の方は実情を知らないので、真意の判断ができずに信じてしまいます。そして、このようなタイプの恨みや妬みといった情報は人の興味を大変に引くので、瞬く間に拡散します。
深刻な嘘ほど広がる
人の命に関わるような深刻なものに対して嘘をつくような人はいないと思わないでください。実は、嘘として広がる医療情報には深刻な病気に関したものが多いです。癌を始めとして治療が難しい病気や、アトピーのような深刻な問題として困る病気に関した嘘が本当に多いです。難しい病気になればなるほど、一般人の病気の理解も難しくなり、嘘を簡単に見抜かれません。また、深刻に困っている人が多いので、騙しやすいという事情があるのだと思います。深刻な病気ほど患者や家族も追い込まれているため、簡単な嘘でも引っかかってしまいます。命に関わるようなものに嘘をつく人なんていないとは思わずに、命に関わるほど深刻なものほど嘘をつく人がたくさんいると思った方が良いです。
拡散されることで誤解させる
先ほどのように、みんなが面白いと思う根拠のない医療情報や、ひどい陰謀説など、深刻な病気に対するひどい嘘は大きく拡散されます。そこで起こる問題が、たくさん拡散されているから正しいという誤解を生みます。それは事実なのではと誤認してしまいます。みんなが話題にしているから、有名人もツイートしていたからなどの理由で、嘘は真実のように扱われてしまいます。ここにネット情報の恐ろしさが潜んでいます。「アメリカでは抗がん剤は行われていない」というようなとんでもない嘘も、あまりに拡散されているために、本当だと多くの患者が信じてしまっていたりします。
批判の有無では正しいかを判断できない
一般の方には、ネット上の医療情報に対する賛否の意見をみることで、それが正しい情報かどうかを判断しようとする人がいます。これはほとんど批判もされていないので正しいだろうなどと思ってしまいます。私が見ている限りでは、これは全く基準になりません。癌に関した嘘について言えば、ほとんどがまともに批判もされていません。
これはなぜかといえば、専門性が高い医療情報に関して批判できる人はそもそもネット上に限られます。また、専門家がわざわざネット上で批判を展開してくれる状況はそれほど多くありません。それは専門家が批判することは大変にリスクも伴う大変な作業だからです。
以前に「アメリカでは抗がん剤治療は行われていない」という嘘について解説したことがありました。これなんか全くの事実無根のとんでもない嘘なわけですが、ネットでちゃんと批判している医師なんて数えるほどで、多くの人が信じていました。専門家がちゃんと批判してくれると思うのは大きな間違いです。
専門家が批判することの難しさ
嘘に対して専門家が批判を展開することは、一般の方が思っているより簡単なことではありません。専門家として批判をするには、十分な科学的根拠を示すことが求められます。そのため、「こんなの嘘だよ」だけでは一般的に済まずに、根拠を提示するためには大変な下調べの時間がかかります。また、専門家として意見をいうからには名前や所属を明示することが必要にもなるので、これにも大変な勇気がいります。嘘を信じている人から批判を受ける場合もありますので、時には嘘を正すことでトラブルにあうこともあります。所属機関の方にも批判が来て面倒なことになる可能性もあります。当たり前のことをちょっというだけでも、皆さんが想像する以上にとても面倒なのです。そのため、ちゃんと批判してくれる専門家がたくさん出てくるというのは残念ながら難しいです。