名前も知らない患者さんとの思い出
「人との出会いは貴重です」
改めてそう思った出来事がありました。
とても悲しい話でもあるのですが、お伝えしておきたいと思い、ここに記します。
ツイッターでがん治療に関する情報発信を始めて、1年ちょっとになりました。今となっては多くの方にフォローしてもらっておりますが、開始当初の頃は大変にさびしい活動でした。
何を書き込んでも、ほとんど反応を得られず。
「こんなことしても時間の無駄なのでやめようか」とすら考え始めていました。
そんな中で一人のがん患者さんに出会いました。yskさんです。
若くして進行した小腸がんにかかられて闘病中の患者さんでした。yskさんは私のツイッターアカウントを一番最初の頃にフォローし始めてくれた方でした。
私が書き込むがんの情報発信に対して、いつも「いいね」をくれたり、温かいコメントをしてくださいました。私は反応をもらえること自体がとても嬉しかったです。
何より、がん患者さん自身が私の情報発信をためになると思ってくれたということ、このような情報を欲しいと思っている患者さんがいるということを知ることができて、自分の情報発信スタイルへの自信につながりました。
そのおかげでツイッターを止めずに、情報発信を続けていけることができました。
その後、ある時から急に多くの方がフォローしてくださるようになって、気がつけば2万人を超える方にフォローしていただけるようにまでなりました。
多くの方に見ていただけるようになったのは、yskさんをはじめとした多くの人の励ましのおかげがあったと思っています。
正直なところ、私はyskさんのことをほとんど知りません。というか、何も知りません。
本名も知らないし。どこに住まわれていたのか、家族は何人なのか、何も知りません。
ただ、ツイッターはそんな二人をつなげてくれました。面白いものです。
いくつかyskさんとのやりとりを載せさせてもらいます。
yskさんの癌に関する知識の多さにはいつも驚かされていました。なかなかそこまで知っている癌患者は多くなく、大変貴重な存在です。最近のツイートを見るだけで苦しみがわかりますので、本当に大変だと思いますが、もう一踏ん張りしていただいて、情報発信を続けていただけたらと願っています。
— 大須賀 覚 (@SatoruO) August 14, 2018
ありがとうございます!いつも的確なコメントをくださるので、本当に勉強させてもらっています。今後ともどうぞよろしくお願いいたします。
— 大須賀 覚 (@SatoruO) September 7, 2018
その例えが素晴らしいですね。何だかうまく例えられないなと思ってたんです。それが一番しっくり来ました。
— 大須賀 覚 (@SatoruO) October 11, 2018
そんなyskさんとのやりとりは急に終わってしまいました。
残念ながら、yskさんは2019年1月にお亡くなりになりました。
大きな喪失でした。全くあったこともない、名前も知らない。でも、亡くなったという知らせを聞いて、涙するほどの関係でした。
私は思わずツイッターでダイレクトメッセージ(DM)をyskさんに送りました。もう見ていないとわかっていましたが、感謝を伝えたいと思ったし、もしかするとご家族が見ているかもしれないので、ご家族に感謝の気持ちをお伝えできるかもとも思ったからです。
このメッセージを送った後に、奥様からお返事をいただけました。
はじめまして。yskの妻です。 メッセージありがとうございます。 私は主人と違いSNSなどは不慣れで主人がどのように活動しているかも殆ど知りませんでした。 昨年の夏以降の入院生活であまりに多くの方が主人のツイッターの話をするので、私も漸く登録したところでした。 一度もあった事がなくても、このように繋がれるのは素敵ですね。 主人は色んな方の考えを聞き、自分の意見を伝えることがとても好きでした。時には厳しい意見も言っていたのではないか、と思いますが、多くの意見を聞き、また発信することに生き甲斐を感じていたように思います。 主人にとっても大須賀さまとの出会いはとても素敵な出会いだったのではな、と思います。 そして、このように温かいメッセージをいただける主人は本当に幸せ者だな、と思います。 ありがとうございます。
この奥様の言葉に私も救われた気がしました。
また、奥様とのやりとりで、yskさんがご自身の葬儀の際に、来場者の方へ贈ったメッセージの内容も教えてもらいました。このメッセージもとても素晴らしかったので、奥様のご許可をいただきまして、ここに掲載させてもらいます。皆さんにも貴重な何かを伝えてくださるものではと思います。
本日はご会葬・ご焼香を賜り誠にありがとうございました。 夏に入院して以降多くの方にお見舞いいただいたり、心配の言葉をかけていただいたり、気にかけていただいたりと目のあたりにして、我ながら多くの方々によくしていただいていたことに驚くとともに、大変な感謝を致しております。 本日も私のためのみならず家族含めてきっとよくしていただいている事と思い、改めて御礼を申し上げます。
若くしてがんになって幼い子供を残して他界してなどと言うと、かわいそうとか思われたり、坊様に身をもって命の大切さを教えてくれたとか説教の材料にされたりしそうですが、やりたいことをやって生きてきて、私自身は自分の人生に後悔はありません。 親に先立つことや、遺す家族に負担をかけることなど申し訳ないと思う事はございますが、この数ヶ月の入院生活で自分の幸せな境遇をつくづく実感しております。
確かに幼い子供を残していますが、罹患してからの2年は罹患しなかったとした人生の幾倍かは子供の側にいることができたような気がしておりますし、できることはしてきたつもりです。
御来場の皆様に甘えさせていただけるとするなら、生来のおしゃべりだった私と話した内容などを娘たちに吹き込んでやって欲しいと思います。きっと僕が側にいる時間の続きとなると思っております。 あわせて、今後は妻の負担も大きくなると思います。できる限りで構いませんので、私の生前と同様にご指導を賜りますようお願い申し上げます。
ここにいる誰よりも人生の先輩
初めて誰よりも上の立場になったので、偉そうに上から言いたい
人生は楽しんだもの勝ち
先を考えないと、大きなことばっかり言って、口先先行だと、そんなに偉そうだと、後悔するぞといろんなところでおどされましたが、特に後悔せずに人生を畳むことができました。
皆さんも、嫌なことは嫌だと言って、自分の喜びを最大限に追い求めて人生を満喫した方が楽しいと思いますよ。
皆様の人生に幸多い事を願っています。
私は、がん患者さんの経験や、そこから生まれるメッセージというのは大変に貴重だと思っています。
がん患者さんは人生をかけた真剣勝負の戦いをしています。そんな中で、がん患者さんが抱く悲しみ、願い、家族への思いはとても尊いものです。時に、それは大きな力となって、人を感動させたり、他の人に何かの行動を起こさせたりするものです。その力はがん治療自体の進歩にも影響を与えています。
がん治療を作っているのは、医療者・研究者・製薬会社だけではありません。私はがん患者さんこそが主役であって、がん治療を作っていく力となっていると思っています。
実は私自身も人生の中で様々な岐路に立ちました。その度に進むべき道を決めるきっかけとなったのは、がん患者さんとの出会いでした。
医者になろうと決意したのも、がん研究を本格的に始めようと思ったのも、がん患者さんとの出会いがきっかけでした。
そして、今回もがん患者さんとの出会いが一つのきっかけとなりました。
出会い、そして残念ながら亡くなられたがん患者さんに、本当に感謝しています。
ブログではあまり自分のことは書かないようにしているのですが、今回は恥ずかしながら自分の体験を紹介させてもらいました。yskさんを知ってもらいたいとも思ったし、このエピソードから何かを感じてもらえればと思ったからです。
最後にyskさんに一言、何だか天国でもまだネットしているような気がしますので、メッセージを送らせてもらいます。
yskさん
何だか色々と書いてしまってすいませんでした。何だか書き留めておきたい気持ちがあったので、書かせてもらいました。ツイや言葉を晒してすいませんでした。
どうか、これからも遠いところから見守っていてください。yskさんにもらった励ましを糧に、これからもがん研究に、情報発信にと突き進んでいきたいと思います。
これからも天国から「いいね」「リツイート」してください。本当にありがとうございました。
大須賀覚