やさしいがん講座 (第1回) 標準治療について

標準?ということは並の治療?

標準ということは並みということ?他に最上級治療があるの?と疑問に思われた方もいると思います。

実はこの標準治療というのは英語の単語「Standard therapy」の日本語訳にあたる言葉なのですが、これは誤訳とも言えるものです。Standardという英語の言葉は、日本語の「標準」とはちょっとニュアンスが違います。

並みという意味ではなくて、ハイレベルで全ての患者さんが標準的に使用すべきという意味合いであり、最高の治療を意味します。

実際、Standard therapy以外に「Best treatment」「 Gold standard therapy」という言われ方もします。

私は、これは深刻な誤訳であって、日本の医療界はちゃんと訂正すべきだと思っているのですが、まだちゃんと行動が起こされていません。とても残念です。誤解を与えていることを申し訳なく思っています。

標準治療とはどんな治療?

では、標準治療とはどんな治療なのでしょうか?

これは手術・放射線・抗がん剤・免疫療法などの組み合わせでできています。そして、この内容はがんの種類(肺がん、乳がんなど)・進行度(ステージ1、2など)によって変わります。つまりは膨大な数の何千という治療のレシピ集のようなものです。

この標準治療というのは、新薬が開発されるたびにアップデートされていて、どんどん改変されています。何かもっと効果のある治療がでると、そちらが標準治療となります。さきほども解説したように、最も効果の高い治療が標準治療となりますので、最上の治療が登場すると、そちらが標準治療となります。

標準治療は副作用が強い?

次に副作用についてです。標準治療はとても副作用が強くて辛いのでしょうというイメージを持たれている方がいると思います。標準治療は効果ばかり考えて、患者の副作用については無視しているのでしょうと思っている方もいますが、それは完全な誤解です。

標準治療となるものは必ず副作用についても詳しく調べられています。どれだけ重い副作用が、どのくらいの頻度で起こるのか、必ず調べられています。

そして、同じ治療効果が得られる治療が複数ある場合には、そのうちの副作用が最も弱く、発生頻度が最も少ないものが標準治療となります。

もちろん、全く副作用がないわけではありません。がんは大変に難しい病気ですので、強力な薬剤を使わないと治療効果が得られません。そのため、どうしても副作用が伴ってしまいます。この辺りは以前のブログ記事(なぜ副作用がある抗がん剤を使わないといけないのか?)もご参考になさってください

時々、「あの民間療法のキノコは全く副作用がなくて、標準治療よりすごい」とか言われる人がいますが、それは何の効果もないものを持ち出せば副作用がないのは当たり前です。水だって、野菜ジュースだって、副作用がない食品はいくらでもあります。

個人の感想レベルではない、数百人規模での明確な効果証明があるかを必ずチェックしてください。効果があるのかが大前提で、その上で最も副作用の少ないものを選ぶことが大事です。

あと、勘違いして欲しくないのは、医者は効果のみ考えて患者が辛いかを軽視しているわけではありません。

標準治療の中には様々な治療があって、効果が高いが副作用が強いもの、効果は少し弱いけど副作用がマイルドなものなどがあります。

それらのどれを選択するかは、医師・患者・家族で良く相談して、患者の最も希望にあうのを選ぶことが行われています。効果だけしか見ていないわけではありません。患者・家族が一番幸せな人生を歩めるのはどの治療かを考えながら標準治療は選択されます。この辺りも誤解が多いですので、追記しておきます。