がんはなぜできるのか? 患者の過去の行いが悪かったからなのか?
患者の生活習慣が原因で起こるがんは何%?
日本では、がんと生活習慣の関係がとても強調されます。多くの人がほとんどの原因が生活習慣だと思っています。では、実際に日本人でがんになる人の何%くらいが、自身の生活習慣の影響で起こっているのでしょうか?先ほどのデータは日本人に特化したものではないので、過去の日本人のがん発生を調べた研究結果を見てみたいと思います。2005年の日本人におけるがん発生データを元に計算された論文があります。この結果が以下です。
生活習慣でがんの原因になるものの圧倒的1位はタバコです。男性の癌の29.7%, 女性の5%の癌はタバコが原因で起こっています。次に関わっているのが飲酒です。飲酒は男性の9%, 女性の2.5%の発生に関わっています。この二つは皆さんがご存知の通りです。では、それ以外の肥満・運動不足・野菜摂取等などはどのくらい関わっているでしょうか?これらはあまり大きな影響を与えておらず、それらを全て足しても男性の4.4%、女性の5.0%の発症に関与しています。
感染性要因はその中の一部は患者の生活習慣によると判断できるものもあるのですが、ピロリ菌のように患者が意図せずになるものも多く、また原因は患者個人というより公衆衛生対策の問題に起因するものが多いので、今回は患者の生活習慣と関連するものとはせずに含めないでおきます。
そうすると、生活習慣が主な原因で起こっている癌の割合は、男性では(喫煙29.7% + 飲酒9% + その他4.4% = 43.1%)。女性では(喫煙5% + 飲酒2.5% + その他5% = 12.5%)となります。男性の生活習慣に関わるものがかなり多い結果になっているのが、上の最初に示した図と比べて乖離があると感じる人がいるかもしれないですが、これは日本人には肺がんがとても多いため、その影響が大きくでているためです。女性の癌では生活習慣が関わるものは少ないということがわかります。
タバコを吸っている人が癌になることの因果関係は言われている通りですので、こればかりは患者の生活習慣が要因であったと言わざる得ません。しかし、喫煙を抜くと、その他の生活習慣が関わっているのは男性で13.4%, 女性7.5%しかないことがわかります。この結果でわかるのは、非喫煙者の発がんにはその人の生活習慣は大きく関わってはいないという現実です。
環境要因が主要因ではない癌はたくさんある
環境要因が大事で、それを止めることで、癌を予防しようというのはもちろん大事なことです。ただ、これをあまりに強調するために、一般の方は癌の原因のほとんどは環境要因だと思い込んでいる人が多いのが問題です。上の図を見てもらえば分かりますが、環境的要因は一部のがんの重要な原因となっていますが、実はほとんど環境要因が関わらない癌がありますし、多くの癌は環境要因よりも偶発的原因の方が強く関係しています。
過去の行いを責めるのは良くない
今回で最もお伝えしたかったことがこちらです。日本では、「病気=過去の行いが悪い」という因果応報説を信じる人が多く、そのことが問題を起こしています。今回お示ししたように、実際にはたくさんの癌が患者の過去の行いとは無関係に、偶然に発症しています。しかし、この因果応報説を信じる人があまりに多く、患者は何か変なものを食べたからではとか、運動しなかったからではなどと、他人から言われなき非難を受けたりします。誤解から患者を傷つけないで下さい。
多くのがん患者さんは、何か変なものを食べたから癌になったのではありません。ヒトという生き物は長生きすると、どうしても癌という病気が起こってしまうのです。それはがん患者さんが悪かったからではありません。
がん患者さんを何も考えずに責めるのはとんでもない間違いであることが多いことを知ってください。また、がん患者さん自身も、自分の過去の行いが悪かったのではと責める必要なんてありません。前を向いて治療に向き合ってほしいと思います。癌患者さんの過去を責めて、その心の呵責を元に勧誘するイカサマ治療などにも騙されてはいけません。
まとめ
癌は、遺伝的要因、偶発的要因、環境要因の3つで起こります。皆さんが思っているよりも、偶発的要因で起こるがんは多いです。患者が何か過去に悪いことをしたから起こっているわけではなく、ヒト
<追記>
4/23/2018 過度の飲酒と肝臓がん・膵臓がん を追記しました
9/28/2018 新たな情報を追加
2/20/2020 追記