第2回 やさしいがん講座 標準治療以外を選択する危険性
新たに開発されるがん治療はいくつ?
私から皆さんに質問です。
世の中には、食べ物・飲み物・食事療法などから始まり、怪しげな民間療法、病院で行われる未承認治療まで、何千というがんに効くという治療が紹介されています。
それらの謳い文句は同じようなものばかりで、「現在、治療効果を確かめています。まだ、本当に効くかはわかりません。しかし、何人かに使ったところでは効きそうです。」というような感じのことが書かれています。
もし、数千くらいある未承認治療の中で、その10%くらいが本当に効果があるとすると、年間に数百の新治療が登場することになるはずです。
昨年の間に、この未承認治療の中で、本当に効果が確認されて、本物の効果的治療だと認められた治療の数はいくつでしょうか?
がんに本当に効く薬は滅多に見つからない
その答えは18個だけです。
あんなに世間にはがんに効くかもという治療があるのに、本当に効果が確認された正真正銘の効果的治療は1年にこの数しか、世界に現れません。
少数の患者さんで効果がありそうに見えても、大人数の患者で正確に調べると、ほとんどの薬は全く効果がありません。
がん患者の治療成績というのは大変に個人差があります。同じ治療を行っても、効いたように見える人は一定の割合で必ずでます。そのため、少数の集団の良く効いたように見える人ばかりを注目して、不正確な評価をしていては効果を誤解してしまいます。
誤魔化せないプロの評価を受けてしまうと、ほとんどの治療は全く効果がないことを明らかにされてしまいます。効いたように見える人の割合は治療をしなかった場合と違いがないとわかってしまいます。
ちなみに、この18個という数字は米国のFDA(アメリカ食品医薬品局)が2018年にがんに本当に効くと確認して、認可したがん治療薬の数です。詳細なリストはこちらのサイトにあります。
FDAは、薬が本当に効果があるのか、安全なのかを審査して、米国内で使って良いですよという承認を行う機関です。がん治療は米国が最も進んでいるので、多くの薬剤は米国で最初に承認されます。そのため、この数が世界の新規承認薬をほぼ表すことになります。
何をもって新規薬剤と判断するかで、18個という数字は少し変わります。腫瘍抑制効果ではなくて、副作用軽減するのみの薬剤も新薬と数えるかなどでも変わります。一般的にがんに効くという意味である腫瘍抑制効果がある薬剤の数がこのくらいと認識して欲しいと思います。
また、もう少し補足しますと、がんには何百という種類がありますが、その全てのがんに対しての新薬の数がたった18個です。つまり、新たな新薬が生まれたのはほんの一部で、ほとんどのがん種では昨年度に新薬は一つも生まれなかったことを意味しています。がんの新薬開発は大変に難しいです。
本当に効果がある確率は0.01%
開発された新薬が最終的に効くと確認される確率はとても低いです。
これは大体0.01%程度と言われています。開発された新薬の多くは様々な検討がされて、ふるいにかけられていきます。初期の開発段階の薬剤は誰にも知られることなく、消えていくものが多いので、実際にこの数を正確に数えることは困難なので推定です。人への臨床試験が開始されるレベルの薬剤で、成功率は3.4%(元論文はこちら)なので、そのデータから考えて、このぐらいの低い値と推察されます。
1万個に1個です。この確率を良く認識してもらいたいです。つまり、闇雲にその辺に転がっているがん未承認治療に手を出しても、ちゃんと効くものに出会える可能性はほぼないということになります。そのあたりに良い治療がゴロゴロ転がっていると勘違いしないことが大事です。